VTuberグループ・ホロライブの人気が世界的に拡大する中、ファンコミュニティの在り方も多様化し、複雑な問題が表面化しています。
その代表的な一例が「自治厨」と呼ばれるファンの存在です。
「自治厨」とは、ネット上で他人の言動を取り締まろうとする“自警団”的なファンのことを指し、配信チャット、X(旧Twitter)、匿名掲示板など、あらゆる場所でしばしば論争の火種となります。
彼らの行動は時に秩序維持として歓迎されることもあれば、逆に暴走と見なされ、コミュニティの分断を招くこともあります。
本記事では、最近ホロライブファンになった方々に向けて、自治厨の定義から始まり、行動の特徴、問題点、ファン心理、他箱や海外との比較、そして配信者や運営の姿勢まで、あらゆる角度から包括的に解説していきます。
1. 「自治厨」とは何者か?――定義と基本的な行動原理
● 語源とネットスラングとしての位置付け
「自治厨」という言葉は、インターネット上の掲示板文化から派生したスラングです。
「○○厨」という言葉は「~に極端にこだわり、迷惑行為をする人」を揶揄するものであり、「自治厨」はその中でも**“自分は場の秩序を守る立場”であるかのように振る舞い、他人にルールを押し付ける人”**を指します。
これはあくまで「公式から任命された管理者ではない人」が、自主的に他人を注意・取り締まる行為を繰り返すことで成立します。
たとえばYouTubeライブのチャット欄で「他の配信者の名前を出さないでください!」と連呼したり、SNS上で「この発言はマナー違反です」と個人を晒し上げるような行為が典型です。
● 彼らの「正義」と「暴走」の境界
自治厨の多くは、自分がコミュニティの雰囲気や秩序を守っているという強い正義感を抱いています。
この正義感がある種の使命感となり、自己判断で「これは許せない」「この人の発言はルール違反だ」と断定し、注意・制止・糾弾という行動に出ます。
一見すると善意のようにも見えるこの行為ですが、以下のような問題点をはらみます。
- ルールが明文化されていない内容でも独自の“マイルール”を他人に適用する
- 注意の仕方が高圧的・命令的で、他人に対する配慮が欠けている
- 公式運営や配信者が無視している軽微なミスを、過剰に問題視して取り締まる
- 自らの行為を正当化するために、同調者を集めて“私刑”を行う
このような行動が繰り返されると、コミュニティ内で恐怖や萎縮、対立が広がってしまい、結果的に「秩序維持」とは真逆の事態を引き起こしてしまうのです。
2. 自治厨の主なタイプと心理的背景
自治厨と一口に言っても、実はその内実はさまざまです。以下では主なタイプを分類して解説します。
● タイプA:正義感主導型
- 自分が“正しいマナー”を知っており、他者にも従わせたいと考える
- 「ルールを守らない人が嫌い」という明確な動機を持つ
- 「公共の場は清潔に保たれるべき」という観念が強い
このタイプは、実社会でも「注意魔」と呼ばれるような行動をしやすく、善意から来るものの、空気を読まずに過剰な干渉をしてしまう傾向があります。
● タイプB:承認欲求型(マウント型)
- 「自分は周囲より詳しい」「ファン歴が長い」と誇示したい
- 他人の誤りを指摘することで優越感を得る
- 「にわかファン」を排除しようとする傾向がある
このタイプは、他人に対するマウント行為の一種として自治行為を行います。
特に、SNSで「正論」を投稿しバズることを目的とする傾向も強く見られます。
● タイプC:憂さ晴らし型
- 現実でのストレスのはけ口として「弱い他人」を叩く
- 自分が“運営側の目線”で振る舞うことで、権力欲を満たす
- 他人を攻撃することに快感を覚える
これは最も悪質なパターンで、しばしば“自治を口実とした荒らし”と化します。
本人は論理的に振る舞っているつもりでも、実質的には誹謗中傷行為と変わりません。
3. 実際にあった自治厨トラブル事例の詳細
ここでは具体的なトラブル例を複数挙げながら、それぞれの背景や問題点を掘り下げて解説します。
● 事例1:チャット欄での「鳩行為」騒動と自治の連鎖
あるタレントのソロ配信中、視聴者の一人が「今、〇〇ちゃんも配信してるよ」と書き込んだ。
それに対して、別の視聴者が「鳩やめろ」「名前出すな」と反応。
すると第三者が「喧嘩はやめて」と割り込み、チャット欄が「注意→反発→仲裁」の連鎖により機能不全に陥ってしまった。
本来「話題に出していない他配信者の名前を出すのはNG」という共通認識はあるものの、過剰に反応することで逆に場を荒らす結果となってしまった典型例です。
● 事例2:X(旧Twitter)での晒しと集団糾弾
あるファンが「今日の〇〇ちゃんの配信で□□って展開、すごかった!」とツイート。
この内容がネタバレと見なされ、自治厨的アカウントが「これはマナー違反です」とスクショ付きで拡散。
数千件のリポストと引用RTにより炎上が広がり、当該アカウントは投稿を削除した上でアカウントも非公開化。
この件では「ネタバレの範囲」の解釈に個人差がある上、本人が意図的にルールを破ったわけでもなかったため、晒し行為自体が過剰だと批判されました。
● 事例3:現地イベントでの口論と運営介入
あるライブイベントの現地で、サイリウムの色や振り方を巡ってファン同士が言い争いに。
「この曲では青でしょ!」「そんなルールはない!」というやり取りが激化し、スタッフが仲裁に入る事態に。
この様子はX上でも報告され、他ファンから「一部のオタクが自治気取りで仕切るから現場が荒れる」と批判された。
4. 各プラットフォームにおける自治厨の特徴的傾向と文化
ホロライブのファン活動が行われている主なプラットフォームごとに、自治厨の現れ方や受け止められ方は異なります。
それぞれの傾向を比較することで、「なぜその行動が炎上したのか」「なぜ嫌われたのか」といった現象の背景が見えてきます。
● YouTubeライブチャット
もっとも頻繁に自治厨的行動が見られるのがYouTubeのライブチャットです。
ここではリアルタイムのやり取りが発生するため、誰かがルールを破ったような発言をした際、即座に別の視聴者が反応して注意を入れるケースが非常に多く見られます。
代表的なのは以下のようなパターンです。
- 「〇〇の名前を出すのはルール違反です」と他者を注意
- 「荒らしは無視して!ブロックして!」とチャット欄で叫ぶ
- 「話題に関係ない話はやめてください!」と連投する
これらは配信者が「スルー推奨」「喧嘩しないで」と呼びかけていることと矛盾するため、過剰な注意=空気の破壊として嫌われやすくなります。
また、視聴者が視聴者を叱る構図そのものが場を硬直化させてしまい、楽しい空気が失われてしまうのも問題です。
● X(旧Twitter)
Xでは、晒し行為と「注意ポスト」が自治行為の中心です。
個人の発言や画像投稿などに対して、「これはルール違反では?」「こういうの、やめて欲しいですね」といった形で糾弾する投稿がなされ、それがバズることで大事になるケースが多発しています。
Xにおける特徴は以下のとおりです。
- 注意の対象は「配信ネタバレ」「公式情報解禁前の言及」「他人の発言マナー」など
- スクリーンショット付きで投稿し、拡散されやすい
- 多数の同調者がリプライや引用リポストで群がる傾向がある
これがいわゆる「晒し文化」であり、「問題行動をした人をネット上で私刑にかける」状態となりやすいのです。
また、当人が非を認めて謝罪しても、「謝って済む問題じゃない」「〇〇ちゃんの顔に泥を塗った」と怒り続ける自治厨も存在し、許さない空気が形成されることもあります。
● 5ch(匿名掲示板)
5chでは、「自治厨そのものが嘲笑・嫌悪の対象」となるのが特徴です。
他人の行動を注意する投稿が出ると、即座に「うるせーよ自治厨」「正義マンきたw」と叩かれる傾向があります。
これは匿名掲示板という場の文化によるもので、次のような性質が影響しています。
- 匿名であるため、個々の発言に責任が伴わない
- 「仕切り屋」や「ルールにうるさい人」は嫌われやすい
- 荒らしと自治厨の対立自体がネタとして消費されがち
ただし、5chでは自治厨を演じてわざとスレを荒らす“釣り”や“ネタキャラ”も存在するため、自治厨=本物とは限らないという点も注意が必要です。
● Reddit(海外英語圏)
英語圏最大のファン掲示板であるRedditでは、「自治厨」は“Gatekeeper(ゲートキーパー)”という言葉で語られます。
これは「ファンとしての資格」を勝手に線引きし、にわかファンやライト層を排除する行動を指します。
- 「ライブをリアルタイムで観ていないやつはファンじゃない」
- 「配信内容を理解していないのに語るな」
- 「古参は特別。新規は黙って見てろ」
こういった態度に対し、Redditでは反発が強く、「誰でもファンを名乗っていい」「楽しみ方は自由」というスタンスが支持される傾向にあります。
一部のタレント自身も、こうした排他姿勢に警鐘を鳴らしており、海外では自治厨=排他主義者という文脈で語られることが多いです。
5. 運営とタレントは自治厨をどう見ているか?
ホロライブ運営やタレントたちは、「自治厨」という言葉を明言することはありませんが、その行動や影響に対して明確な立場や方針を持っています。
ここでは、彼らの発言やガイドラインから読み取れるメッセージを解説します。
● 公式ガイドラインと「自治をしないで」というスタンス
ホロライブの多くの配信では、概要欄や固定コメントにルールが明記されています。
その中で繰り返し登場するのが次のような表現です。
- 「迷惑なコメントを見かけても反応せず、各自でブロックしてください」
- 「視聴者同士での注意喚起や指摘はお控えください」
- 「不適切な発言にはスルー対応をお願いします」
これらの文言はまさに、ファンによる“自治行為”を抑制する意図を含んでいます。
つまり、配信者や運営は「秩序の維持は公式側が担う」「ファンには穏やかに楽しんでほしい」と考えているということです。
運営としても、ファン同士がトラブルを起こすことでSNS炎上や評判低下に繋がるリスクを避けたいため、過剰な正義感による介入を好ましく思っていないことは明らかです。
● 配信者本人のスタンス
多くのタレントが、自治的な空気を避けるために意識していることがあります。
● 配信中に喧嘩や注意が始まった際のコメント例
- 「あまり気にしないで~楽しくやろうね」
- 「他の配信者さんの名前は出さないでね!でも怒らないであげて」
- 「そのコメントはスルーで大丈夫です」
こうした言葉は、視聴者同士の衝突を避けるために中立的かつ穏便な対応を促している証拠です。
また、特に大規模な企画や複数人コラボ配信の際には、事前に「ネタバレNG」「他枠の話は控えてね」とユーモア混じりに伝えることで、ルールを押し付けずに自発的なマナー意識を促す工夫が見られます。
6. 自治行為の心理的構造とファン同士の力学
● なぜ人は「自治行為」に走るのか?
自治厨の行動には、以下のような心理的な背景があります。
1. 正義感の自己強化
自分が「正しい」と信じるルールや価値観に反するものを見つけると、
それを是正しなければならないという義務感に駆られます。
これは「自己一貫性」への欲求であり、「自分は正しい側にいる」と確認することで安心を得ています。
2. 承認欲求とマウント願望
「注意した自分が褒められる」「ルールを教えることで上に立てる」という欲求も動機になります。
特にSNSでは“正論”を言えば支持が得られやすく、「いいね」や「RT」で承認されることが報酬となります。
この承認ループが自治行動を加速させます。
3. 不安や排他意識の裏返し
「新参者がルールを守らず秩序が壊れるかもしれない」という不安や、
「にわかに荒らされたくない」という排他意識も背景にあります。
つまり、マナー違反が許せないのではなく、「自分たちの場所が壊されること」への恐怖なのです。
● なぜ自治厨は嫌われるのか?
自治厨の行為は、しばしば以下のような反感を買います。
1. 他人への“命令”になってしまう
マナーを共有するつもりでも、それが「こうしろ」「やめろ」という命令口調になると、
受け手は反発や萎縮を覚えます。
これは「指示されること」への人間の本能的な抵抗によるものです。
2. “余計なお世話”の境界を越える
たとえ内容が正しくても、当事者でもない人間が口出ししてくると、
「なんであなたに言われなきゃいけないの?」と感じられてしまいます。
特に匿名やネット上では、相手の意図や文脈が見えないため余計に反発を招きます。
3. “空気を壊す存在”として認識される
配信チャットにせよ、SNSにせよ、「楽しい空気」が最も大切です。
そこに突然、説教や注意が飛び込むと場が冷えます。
「マナーを守る人」ではなく「雰囲気を壊す人」として認識されることで、
その正しさよりも嫌悪感が先立ってしまうのです。
● ファン同士の“対立構造”はなぜ生まれるのか?
自治厨の登場によって、以下のような構造的対立が生まれます。
● 【構図1】:マナー遵守派 vs ライト層
- マナー遵守派:「こういう振る舞いはルール違反。注意すべき」
- ライト層:「そんなに厳しく言わなくてもいいでしょ。気軽に楽しみたいだけ」
この溝が広がると、「怖い」「面倒くさい」という理由でライト層が離れ、
ファン層が硬直化していきます。
● 【構図2】:自治厨 vs 反自治派
- 自治厨:「ルールを破る人間は排除するべき」
- 反自治派:「その排除こそ迷惑。あなたこそやめてくれ」
この対立は激化しやすく、SNSや掲示板では相互ブロック・晒し合い・報復合戦に発展することもあります。
7. 他箱との比較:ホロライブファンの自治傾向は特殊か?
「自治厨」はネットコミュニティ全般に存在する現象ですが、とりわけホロライブのファンコミュニティではその存在感が目立つと言われています。
ここでは、他のVTuberグループ(通称「他箱」)と比較しながら、ホロライブのファン文化の特徴を掘り下げていきます。
● にじさんじとの比較:匿名性と寛容さの文化
にじさんじはホロライブと並ぶ二大VTuber事務所のひとつですが、ファンコミュニティの空気は大きく異なります。
にじさんじでは、**匿名掲示板文化の延長線上にある「自由なファン活動」**がベースになっており、
以下のような特徴が見られます。
- ファン同士のやり取りに対して口出しを控える空気がある
- タレント同士の関係がフラットで、コラボや内輪ネタが多く“他箱マナー”がやや緩い
- コメント欄での自治行為は目立ちにくく、逆に「細かいことで怒るな」という空気がある
そのため、「自治厨」という存在は一定数いても、ホロライブのように騒ぎになるケースは少なめです。
タレントの配信内容もバラエティ寄りで視聴者層が幅広く、マナーより楽しさを重視する空気があるとも言えるでしょう。
● 774inc.、Vshojoなどとの違い:ゆるい文化とファンの距離感
774inc.(ななしいんく)や海外VTuberグループのVshojoなどは、いわばゆるくてオープンなファン文化が特徴です。
- コメント欄での過剰な制止が少なく、「好きに楽しんでOK」というスタンス
- 配信者との距離感が近く、マナーよりも“人間らしいやりとり”を重視
- ファン同士も「見守る」「黙ってブロック」「スルー文化」が主流
特にVshojoなどは英語圏に拠点を持つため、文化的に「個人の自由を尊重する風潮」が強く、注意コメントそのものが嫌われる傾向があります。
ファン同士の“干渉”を極力避けるという意味では、自治厨が成立しにくい環境とも言えるでしょう。
● 中国VTuber界隈との比較:モデレーションと公式統制の強さ
中国VTuber界隈では、Bilibiliなどの動画サイトにおいてコメント欄のモデレーション(統制)が非常に強く、
タレントのファンコミュニティも「組織化」「ルール化」されているケースが多く見られます。
そのため、以下のような傾向があります。
- モデレーターが実際に自治行為を行うため、視聴者が出しゃばる必要がない
- 書き込み履歴やID表示による抑止力が機能している
- トラブルが起きた場合、公式ファン代表が仲裁する文化がある
このような背景により、ファン個人による“野放図な自治行為”は起こりにくく、
逆に公式が強く関与することで炎上を未然に防いでいるとも言えます。
ただし、その分「個人の発言の自由度」が低く、自治厨ではなく“公式の統制力”による緊張感が生まれるという側面もあります。
● なぜホロライブだけ「自治厨」が目立つのか?
では、なぜホロライブにおいて自治厨が特に目立つのでしょうか。
いくつかの要因を挙げてみましょう。
1. ファン層の広さと多様性
ホロライブは全年齢層・国内外問わず広くファンを抱えており、
「にわか」「古参」「若年層」「オタク層」「一般層」などが混在しています。
その結果、ルールや常識に対する認識がバラバラであり、
“自分の正義”を押し通したくなる土壌が生まれやすくなっています。
2. 「神格化された推し」を守ろうとする熱量
ホロライブはタレントのキャラクター性や清楚さを大切にする傾向があり、
それゆえ「推しの評判を守らねば」というファンの防衛意識が高まります。
この意識が過剰になると、少しの違和感やリスクある発言も見逃せず、
“守るつもりで攻撃する”自治厨行動に発展しやすいのです。
3. SNS可視性とファン同士の「見張り合い」
Xなどでのファン発言は可視化され、炎上しやすい構造になっています。
「変なことを言えば晒される」「それを晒すことでRTが稼げる」という環境により、
「監視し、注意する」文化が自然発生してしまった側面もあるのです。
8. 海外ファンとの文化的差異:「ゲートキーピング」との対比
ホロライブは世界中にファンを持ち、特に英語圏・中国圏・東南アジア圏などでも大きな支持を集めています。
それぞれの地域ではファン文化やネットリテラシーに違いがあり、「自治厨」に該当するような行動にも異なる名前や意味付けがされています。
● 海外における類似概念:「Gatekeeping(ゲートキーピング)」
英語圏では「Gatekeeping(門番行為)」という用語が、自治厨に近い文脈で使われます。
これは以下のような行動を指します。
- 「本物のファンは〇〇しているべき」
- 「最近のファンはにわかで、語る資格がない」
- 「△△を知らない人がホロライブ語らないでほしい」
つまり、「誰が“正しいファン”なのか」を線引きし、その基準に満たない人を排除・冷遇する行動です。
この概念は海外オタク文化全般で問題視されており、VTuber界隈でも頻繁に議論の対象となっています。
● ゲートキーピングと自治厨の共通点と違い
項目 | 自治厨 | ゲートキーピング |
---|---|---|
行動の対象 | その場のマナー違反(ネタバレ・他枠の名前など) | ファンとしての“資格”全般 |
主張の軸 | マナーと秩序の維持 | 知識・熱量・歴史による序列 |
発生の場 | 配信チャット・SNS・掲示板 | 主にSNS・Reddit・フォーラム |
被害の型 | 晒し・注意・説教 | 排除・冷笑・無言の圧力 |
このように、どちらも“秩序の保守”を目的としながら、対象や手段が異なるという点で明確な違いがあります。
ただし共通しているのは、いずれも新規ファンに対して萎縮や恐怖を与え、コミュニティの硬直化を招くという問題点です。
● 海外タレントの発信:「ファンのあり方は自由である」
ホロライブEN(英語圏)やID(インドネシア圏)のタレントたちは、しばしば「誰でもファンになっていい」「楽しみ方は自由」というメッセージを発信しています。
たとえば、あるENメンバーは以下のように語りました。
「あなたがリアルタイムで観られなくても、アーカイブでも、切り抜きでも、楽しんでくれているならそれで十分。誰も“ファンの資格”を決める権利はないよ。」
このような言葉は、ゲートキーピング的な態度に悩んだファンを救い、包摂性の高いコミュニティづくりへとつながります。
Redditなどの海外掲示板でも、「ファン同士の叱責は見たくない」「それは配信者の仕事であって、ファンの役割じゃない」とする意見が多く見られます。
● 「自浄」と「無干渉」の文化的違い
海外ファン文化では、以下のような“自治”へのアプローチが主流です。
- 荒らしや違反者は個人でブロックするか、モデレーターに通報
- 他の視聴者を注意する行為は避ける(揉め事になるから)
- コミュニティの雰囲気は「空気」ではなく「明文化されたルール」で守るべきと考える
一方、日本のファン文化では、「察する」「空気を読む」「間違いを見過ごさない」といった集団規範が強く、
“善意の取り締まり”が正当化されやすい構造になっているとも言えます。
● 成熟したコミュニティとは
海外では、「誰でも自由に楽しめること」がコミュニティの成熟指標とされます。
それは「にわか」を否定するのではなく、「にわかの中からいつか“推し”が生まれる」という前提で受け入れる姿勢です。
ホロライブというコンテンツが国境を超えて広がる中、こうした文化的な多様性を理解し、
ファン同士が寛容に接し合うことが、今後ますます求められていくでしょう。
9. 新規ファンが安心して推し活を楽しむための10箇条
ホロライブの世界は非常に広く、楽曲・配信・イベント・グッズ・SNSなど、楽しみ方は多岐にわたります。
しかし、あまりに多くの“慣例”や“暗黙のルール”があるため、「間違ったらどうしよう」と不安になる新規ファンも多いはずです。
ここでは、そうした新規ファンが萎縮せず、楽しく推し活を続けていくための“心構え”を10箇条にまとめました。
① ルールの「本質」は公式が決めていると理解しよう
ファンが作ったローカルルールやマナーもありますが、最も大事なのは配信者本人と公式運営が明記しているルールです。
それを超えて「こうあるべき」と押し付けてくる人がいても、気にしなくてOKです。
② 初心者であることに引け目を感じなくていい
誰しも最初は“にわか”です。
古参ファンであっても、最初は用語もルールも知らなかったはず。
わからないことがあって当然なので、無理に知ったかぶりをする必要はありません。
③ 他の人に注意されたら「ありがたく受け止める」か「スルー」
もしも注意されたら、内容によって「そうだったんだ」と思えばOKですし、
明らかに高圧的で不快なら、反論せずスルーするのが最善です。
言い返すと場が荒れるので、黙って離れる勇気も大事です。
④ 自治コメントに反応しない
「〇〇は禁止です!」「マナー守れ!」と叫んでいるコメントが流れても、
その人と議論したり注意し返したりするのは逆効果です。
“注意の応酬”こそが場を壊す原因になるため、自治コメントも見なかったことにしてスルーしましょう。
⑤ 自分が注意したくなったときは一拍おく
ルール違反を見て注意したくなることもあります。
でもその前に、「それ、本当に今自分が言うべき?」「本人は気付いていないだけでは?」と一呼吸置いて考えてください。
たいていの場合、運営かモデレーターが対応するか、時間が経てば自然と流れていきます。
⑥ “楽しむこと”がファンの最大の仕事
ファンの最も大事な役割は「楽しむこと」です。
ルールを守っていても、いつも怒っていたら意味がありません。
自分の楽しみ方に自信を持ちましょう。
⑦ 他人の推し方を否定しない
アーカイブ勢、切り抜き勢、イラスト勢、SNS専門勢…人によって応援のスタイルは様々です。
「それって本当のファンなの?」なんて言う人がいたら、その人の方が“ファン失格”です。
⑧ 炎上や晒しに巻き込まれたら即退避
Xなどでファンの言動が晒されて炎上しているのを見たら、近寄らないのが一番です。
参加したくなる気持ちはわかりますが、あなたが参戦しても何も解決しません。
炎上には触れない、近寄らない、拡散しないの三原則を守りましょう。
⑨ 仲良くするより“迷惑をかけない”を意識しよう
誰と仲良くなる必要もありません。
ただ、誰かの気分を害さない・過剰な自己主張をしない・暴言を吐かない。
それだけで十分です。
⑩ わからないことがあれば、まず公式情報を確認
ルールや方針が不安になったら、配信者の説明欄・運営の公式ガイドラインを確認しましょう。
Xで探すと勝手ルールが出回っていたりするので、一次情報の確認を習慣にすると混乱が減ります。
10. 結論:自治厨問題の本質と、これからのファン文化へ
● 自治厨は“問題”ではなく“症状”である
ここまで解説してきたとおり、いわゆる「自治厨」とされる人々の行動は、
本人の悪意よりも、**「正しくありたい」「推しを守りたい」という気持ちから生まれています。
つまり、自治厨とは単なる迷惑行為ではなく、ファンコミュニティが抱える不安・緊張・過剰な責任感の“症状”**なのです。
- 新規ファンの流入に対する不安
- 炎上や荒らしを避けたいという焦り
- タレントを傷つけたくないという過剰な防衛本能
こうした感情が蓄積した結果、「誰かが秩序を守らねばならない」という強迫観念が生まれ、
それが“怒る”“叱る”“晒す”という攻撃行動に繋がってしまっているのです。
● ファンが作る「やさしい空気」の必要性
ファンコミュニティは、ルールよりも「空気」によって成立しています。
そしてその空気は、誰かの一言、誰かの態度、誰かの目線によって変化します。
配信者がどんなに楽しく配信しても、チャット欄が殺伐としていたら台無しです。
逆に、少々ミスがあっても、視聴者が寛容なら場は温かく保たれます。
その“空気”をつくるのは、公式でもモデレーターでもありません。
それを見ている一人ひとりのファン自身です。
怒らず、叱らず、笑って受け流す。
わからないことがあったら教えてあげる。
空気が怪しくなったら、自分だけでも穏やかでいる。
そんな「やさしいファン」が一人、また一人と増えていくことが、
自治厨も、荒らしも、叩きも必要のない世界をつくる礎になるのです。
● 推しを守るとは「怒ること」ではなく「見守ること」
「推しを守るために注意する」「晒して排除する」
そういう“強さ”が、かえって推しを困らせ、悲しませることがあります。
本当に推しを守るとは、推しの言葉を信じて、落ち着いて見守ることです。
何かあっても「大丈夫だよ」と言えるファンがいてくれること。
空気が悪くなっても、そっと和ませてくれるコメントがあること。
過ちがあっても、静かに許してくれる視聴者がいること。
それが、タレントにとっての「守られている」という感覚に繋がります。
ファンができる最も強くて、最も優しい防衛手段は、「怒らずに見守る」ことなのです。
おわりに:ホロライブという“箱”の未来のために
ホロライブは、これまで数々の困難やトラブルを乗り越えてきた大きな文化圏です。
その中で成長してきたタレントたちも、ファンたちも、みな試行錯誤の連続でした。
「自治厨」という言葉で片づけてしまえば簡単ですが、
その背景には、誰かの熱意や愛情、そして不器用な善意があることを忘れてはいけません。
大切なのは、“仕切ること”ではなく、“受け入れること”。
“叱ること”ではなく、“寄り添うこと”。
“晒すこと”ではなく、“黙って流すこと”。
これからホロライブの世界に入る新しいファンたちが、
びくびくせずに「ただ楽しいから観てるだけ」でいられるように。
古参ファンも、公式も、タレントも、みんなで笑って同じ方向を向けるように。
今一度、ファンのひとりとして、自分の態度や言葉を見直し、
もっとやさしく、もっと自由で、もっと楽しいホロライブコミュニティを、一緒につくっていきましょう。
管理人のひとこと
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
「自治厨」という言葉はどうしてもネガティブに響きますが、その裏には、誰かがホロライブを大切に思う気持ちが隠れているのだと、私は思っています。
私自身、新しくホロライブにハマった頃、「これって言っちゃいけないのかな?」と不安になったことが何度もありました。
それでも、やさしい言葉をかけてくれるファンや、気にせず笑っているホロメンたちのおかげで、今もこうして楽しく応援を続けられています。
だからこそ、この記事では一方的に「自治厨が悪だ」と糾弾するのではなく、どうしてそうなってしまうのか、どうすれば無理なく共存できるのかを考えながら書きました。
「間違えてもいい」「わからなくてもいい」「でも、他人を責めない」
そんな空気が少しずつでも広がっていったら嬉しいです。
推しを守るのは、ルールじゃなくて、やさしさだと思います。
これからも一緒に、ホロライブを楽しんでいきましょうね。
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