ホロライブ運営と相次ぐ「内部告発」
バーチャルYouTuberグループ「ホロライブ」を運営するカバー株式会社では、近年いくつかの内部告発や内部情報漏洩の問題が明るみに出ています。
これらの事例は、それぞれ異なる経緯や背景を持ちながらも、運営内部のトラブルが表面化したものです。
本記事では、過去から現在にかけてホロライブに関連して発生した主な内部告発・情報漏洩のケースについて、内容や関係者、背景、そして与えた影響を順に振り返ります。
夜空メルのスタッフ不祥事と告発 (2019~2020年)
初期ホロライブ所属タレントの夜空メルさんの件は、ホロライブ運営内部の問題が初めて公に語られた重大なケースでした。
2019年頃、夜空メルさんは担当スタッフからのストーカー被害・ハラスメントに悩まされていました。
当該スタッフは「ミーティング」と称して度重なる深夜の長電話を強要したり、問題視されると匿名でTwitterやメールを使って彼女への誹謗中傷を行うなど、常軌を逸した行為を重ねていたといいます。
夜空メルさん本人はしばらく公表を控えていましたが、状況が改善されない中で2020年5月16日、Twitter上で自身の被害状況をファンに向けて詳細に報告しました。
これは実質的に社内の不正行為を告発する内容で、運営内部の問題が初めて本人の口から語られた形です。
この告発を受け、カバー株式会社も翌日に公式声明を発表し「弊社所属の関係者が夜空メルに対しストーカーまがいの迷惑行為を行っていた」ことを認めて謝罪しました。
運営は当該人物への処分と再発防止策を約束しましたが、ファンからは「本人が声を上げなければ隠蔽されたのではないか」との懸念も寄せられました。
結果的にこのスタッフは解雇に至ったとみられ、夜空メルさんは活動を継続しました。
この事件は、ホロライブ運営にとって内部統制やコンプライアンス意識の不足を指摘される契機となり、後の運営改善につながったとも言われています。
潤羽るしあの情報漏洩と契約解除 (2022年)
ホロライブ三期生として人気を博していた潤羽るしあさんのケースは、内部情報の漏洩が直接的な理由でタレントが契約解除に至った初めての例でした。
2022年2月、潤羽るしあさんはプライベートなトラブル(有名歌い手との交際疑惑騒動)の渦中で、自身の潔白を証明しようとするあまり、業務上のやり取りや機密情報を第三者に漏洩してしまったと報じられています。
カバー株式会社は同年2月24日付で公式サイトに声明を掲載し、潤羽るしあさんとのVTuberタレント契約を即日解除したと発表しました。
声明によれば、社内で取得した秘密情報やSNS上でのやり取りを許可なく第三者に漏らす契約違反行為が認められ、また関係各所へ虚偽の申告を行うなど信用失墜行為も確認されたため、マネジメント継続が困難と判断したとされています。
潤羽るしあさんはホロライブ屈指のスーパーチャット収入を誇る人気VTuberだっただけに、この突然の契約解除発表は大きな衝撃を与えました。
彼女のYouTubeチャンネルは翌月末で閉鎖され、公式グッズの返金対応なども行われました。
一部ファンからは「本人は被害者なのではないか」「情状酌量の余地はなかったのか」と同情の声も上がりましたが、運営側は機密保持契約(NDA)の遵守を徹底すべく厳正な対応を取った形です。
この出来事以降、カバー社は所属タレントへのコンプライアンス教育をより一層強化する方針を打ち出し、再発防止に努めるとコメントしています。
夜空メルの契約解除と再燃する内部不信 (2024年)
前述の夜空メルさんは、その後もしばらく活動を続けていましたが、2024年1月16日付で契約解除となりホロライブを去ることになりました。
公式発表によれば、夜空メルさんは「弊社から取得した機密情報ややり取りを許可なく第三者に漏洩する」という契約違反行為が認められたため、マネジメント継続が困難と判断し、合意の上で契約解除に至ったとされています。
この理由だけを見ると、内容的には潤羽るしあさんのケースとよく似た情報漏洩による契約解除です。
しかし夜空メルさんの場合、以前に自ら社内のハラスメント被害を告発した経緯もあったため、ファンの間では様々な憶測を呼びました。
「一体何を漏洩したのか?」「過去に自分を悩ませた社員への不満を外部に相談したのではないか?」といった噂も飛び交い、一部では内部告発者への報復ではないかとの疑念さえ囁かれました。
実際のところ、具体的にどのような情報が漏洩されたのか、またその相手が誰だったのか等、詳細は公表されていません。
カバー社は「契約違反行為が認められたため」とのみ説明し、夜空メルさん本人も深く言及しないまま表舞台を去りました。
このため真相は不透明ですが、ホロライブ初期メンバーの一人が突然いなくなった事実はファンコミュニティに大きな衝撃を与え、運営への不信感を再燃させる出来事となりました。
相次ぐ卒業と「方向性の違い」――運営方針への不満
2024年はホロライブにとって転換点とも言える年でした。
先述の夜空メルさんの離脱に加え、看板タレントの卒業発表が続いたからです。
まず湊あくあさん(ホロライブ2期生)は、2024年8月にホロライブからの卒業を発表しました。
湊あくあさんはデビュー以来トップクラスの人気を誇り、「ホロライブの顔」とまで称された存在でしたが、本人から語られた卒業理由は「会社(運営)との方向性の違い」でした。
ファンや他の演者との不仲ではなく、あくまで運営方針との齟齬が決断の背景にあると明かされたのです。
8月28日の卒業ライブは同時視聴者数が最大96万人を超えるほど多くのファンに見守られ、ホロライブ史に残る壮大な門出となりました。
注目すべきは、その直前に湊あくあさんが配信で発した言葉でした。
卒業発表の約1週間前、8月1日の歌枠配信で彼女は「もし私の身に何かあったら、私には納得できない大きな力が動いていると思ってほしい。私は明日も生きる。正義のために諦めない。戦い続ける」といった不穏な発言を残しています。
この発言は当時ファンの間でも大きな話題となり、「運営との間で何かトラブルがあるのでは」「まさか卒業の伏線では?」と心配する声が上がっていました。
結果的にその予感は的中し、彼女はホロライブを去る選択をしました。
湊あくあさんほどの主力メンバーが「方向性の違い」を理由に辞める事実は、ホロライブ運営への疑問をファンのみならず業界内にも投げかけることになりました。
続いて沙花叉クロヱさん(ホロライブ6期生、holoX所属)も、同年11月に「配信活動の終了」を発表しました(形式上は卒業とは異なり所属継続ながら配信活動を終える形)。
沙花叉クロヱさんは2025年1月末をもって定常的な配信をやめると発表し、その理由として「やりたいことが他に見つかったこと」を挙げつつも、「会社との方向性の違いや活動に伴う体調不良」が主な要因であると説明しました。
配信で彼女は「自分はもっと自由にチャレンジしたいが、現在の環境では難しい」とも取れる発言をしており、暗に運営側への不満を示唆しているのではないかと受け取られました。
沙花叉さんはホロライブ内でも新進気鋭の人気メンバーでしたが、それでも理想とする活動方針と運営の求める方向性が一致しなかったことになります。
このようにタレント自らが運営との意見の相違を理由に身を引くケースが相次いだことで、ファンの間ではホロライブ運営内部の体制や方針転換に対する不信感が一層高まりました。
特に湊あくあさんの件では本人の意味深な言葉も相まって、「運営上層部の意向が各タレントに過度の負担や制約を強いているのではないか」「人気メンバーでさえ異議を唱えれば辞めざるを得ない空気なのか」といった憶測が飛び交いました。
実際、カバー株式会社は2023年に東証グロース市場への新規上場を果たし事業を急拡大させましたが、その裏で人員体制の整備や労務管理が追いつかず、一部スタッフやタレントに過重な負担がかかっていた可能性も指摘されています。
元社員による衝撃の暴露記事 (2024年9月)
ホロライブ運営内部の不穏な噂に拍車をかけたのが、カバー株式会社の元社員を名乗る人物が2024年9月に発表した暴露記事でした。
この人物は一般向けブログサービス「note」に長文の記事を投稿し、在職中に目にしたホロライブ運営の内幕を赤裸々に明かしました。
記事の内容は衝撃的で、具体的な実名こそ避けられているものの、ホロライブ運営の中枢で特定の幹部社員と特定タレント(A氏とします)が私生活でも近しい関係にあり、そのタレントA氏を優遇するために様々な不正が行われていると主張しました。
例えばその記事では、「A氏(投稿では名前が伏せられていますが、文脈からさくらみこさんを指すと受け取られました)が経営企画担当の幹部と同棲に近い関係にあり、会社ぐるみでA氏の人気を押し上げる工作が行われた」との告発がありました。
具体的には、A氏を人気上位にするために視聴者数の水増し(いわゆる同接BOTの利用)まで行い、さらにA氏と相性の良い人気メンバーとのユニット企画を次々に優先して実施する一方で、邪魔になるメンバーの出演機会を意図的に減らしたり妨害したと述べています。
さらに記事は踏み込んで、ホロライブ内の派閥闘争にも言及しました。
長年ホロライブの人気を牽引してきた宝鐘マリンさんら「みんなで仲良く盛り上げよう」という良識派のグループが存在する一方で、前述のA氏やフブキさん側の派閥が権勢を強め、良識派閥を潰すために陰湿な嫌がらせを繰り返している、と書かれていたのです。
事実かどうか定かではありませんが、その「嫌がらせ」の一例として挙げられていたのが、潤羽るしあさんの契約解除や桐生ココさんの卒業に関する裏話でした。
記事によれば、るしあさんは本人のわがままだけでなく「圧倒的な人気を誇るホロライブ三期生(マリンさん達)の勢いを削ぐため」上層部にもともと疎まれており、件の情報漏洩騒動は解雇の口実に利用された可能性があると示唆しています。
また、2021年に卒業した桐生ココさんについても「会社全体に広がった中国からの誹謗中傷を沈静化させるために半ば仕方なく卒業という形にしたが、実際には特定派閥がココさんを追い出すべく社内いじめを行っていた」という趣旨の記述がありました。
さらに忘れてはならないのが、前述の夜空メルさんの件もその記事に登場することです。
夜空メルさんは2019年の内部告発者でしたが、記事では「過去に社内ストーカー被害を告発し裁判沙汰にした彼女は、その加害者である現幹部に恨まれており、一方的に解雇された」と書かれていました。
実際にメルさんが2024年に契約解除となった事実と符合する内容だけに、この部分は大きな波紋を呼びました。
この元社員は「現在のホロライブ運営は腐りきっており、自浄作用は全く期待できない。外部からの圧力が無い限り変わることはないだろう」と社内の膿を痛烈に批判し、自身も愛想が尽きて退職したのだと締めくくっています。
当然ながらカバー株式会社はこの投稿に対し公式な反応を示していませんが、インターネット上では瞬く間に拡散されました。
内容の真偽について確証はないものの、登場人物の特徴から「A氏=さくらみこさんでは」「幹部社員B氏とは誰なのか」など憶測が飛び交い、一時ホロライブ界隈は大混乱となりました。
一部ファンは「デマであってほしい」「信じたくない」と願う一方、他方では「最近のホロライブの動きを見ると合点がいく部分もある」「あくあやメルの件とも符合する」と信じる声もあり、コミュニティ内の溝が深まる事態にもなっています。
また投稿内容が事実であれば公私混同や不正な利益供与が行われていることになり、上場企業であるカバー社にとって看過できない問題です。
同社は直前の2024年10月、公正取引委員会から下請法違反(イラストや3Dモデル制作を委託したクリエイターに対する無償のやり直し強要・報酬遅延)の指導と勧告を受けたばかりでもあり、ガバナンス強化に努めるとコメントした矢先でした。
元社員の告発記事はタイミング的にもそれと前後しており、社内の統制が取れていない印象を世間に与える結果となっています。
内部情報の流出事件:さくらみこ企画書リーク (2025年)
極め付きとも言えるのが、2025年に入って発生した内部情報リーク疑惑です。
発端はホロライブ内で計画されていた大型企画「RUSTサーバーイベント」を巡るトラブルでした。
ホロライブ所属タレントのさくらみこさんは、自身が中心となってホロライブメンバー全員で参加する大規模企画(人気ゲーム「RUST」を用いたイベント)を立案し、2025年夏頃の開催を目指していると以前から配信で示唆していました。
ところが企画の調整が難航していた矢先、同僚の兎田ぺこらさんとAZKiさんが2025年4月に突如「ホロライブ全体でRUSTサーバーを近日開始する」という告知を行ったのです。
この二人の発表した時期は、奇しくもさくらみこさんが構想していたと語っていた開催予定時期(夏)より数ヶ月も前倒しのタイミングでした。
これを知ったファンは騒然となり、「みこちが温めていた企画と被ってしまうのでは?」「タイミングが悪すぎる。もしかしてみこちの企画がお蔵入りになったのはこのせい?」と様々な憶測が飛び交いました。
そして事態を決定的にややこしくしたのが、内部情報の流出です。
なんとインターネット上の匿名掲示板に、「さくらみこさんがメンバー向けに共有したイベント企画書」とされる画像が投稿されてしまいました。
その流出資料には、さくらみこさんが考えていたイベントの具体的な日程(例えば○月○日ごろ開催予定)まで書かれており、まさに社内関係者しか知り得ない内部情報が含まれていました。
このリーク情報によれば、みこさんの企画予定時期は「8月」となっていました。
後日、兎田ぺこらさんが自身の配信で「(みこちの企画とは)時期が結構離れてたはず、数ヶ月は違った」と発言したのですが、その「数ヶ月違う」という期間を逆算するとちょうどリークされた情報にあったみこさんの予定時期(8月)と符合してしまったのです。
つまり、ぺこらさんはみこさんの企画が8月予定であることを知っていた可能性が高く、知っていながら4月に別企画をぶつけたのではないか……という疑惑が生まれてしまいました。
そして何より、「本来秘密であるはずのメンバー向け企画情報がなぜ外部に漏れているのか?」という点でファンも演者も大きな不安を感じる事態となりました。
このDiscord経由とみられる内部資料の流出について、カバー社は公式には詳細を公表していませんが、社内調査の上で必要に応じて法的措置も検討しているものと推測されます。
ファンコミュニティでは流出元について様々な議論がなされ、「内部犯行であれば犯人探しは容易ではないか」「もしや流出に関わった人物が複数いるのではないか」といった憶測もありました。
一部ネット掲示板では「流出元は特定のタレントではないか」という臆測も飛び交いましたが、確証はなく、2025年半ばの時点でも公式に誰がリークに関与したかは明らかにされていません。
この件に関しては、同じ情報漏洩でも夜空メルさんが即日クビになった一方で犯人が不明のままになっていることから、「もし内部に現役のリーク者がいるなら大問題」「再発防止のためにも運営は徹底解明すべきだ」とする意見が多く聞かれます。
おわりに:内部告発が突きつける課題
以上、ホロライブに関する内部告発・情報漏洩の主な事例を振り返りました。
初期のスタッフ不祥事から人気タレントの契約解除、卒業理由の告白、さらには内部関係者によるとされる告発記事や企画情報のリークに至るまで、これほど内部事情が表沙汰になるVTuber事務所は他に類を見ません。
ホロライブプロダクションは急成長する一方で、その裏で様々な軋轢や課題を抱えていることが浮き彫りになったと言えるでしょう。
内部告発が相次ぐ背景には、運営組織の肥大化による統制の難しさや、一部幹部とタレントの力関係の偏りなどが指摘されています。
会社としてはコンプライアンス遵守や情報管理の徹底、風通しの良い組織文化の醸成が急務と思われます。
実際、カバー株式会社は2023年以降、社内体制の見直しや人員増強を進めているとされていますが、上記のような問題が再び起こらないよう、一層の内部統制強化が求められています。
一方で、ホロライブというコンテンツそのものの人気は依然として高く、所属タレント達の才能と努力によって多くのファンを楽しませ続けています。
だからこそ、運営側には彼女たちが安心して創作・配信に打ち込める環境を整えてほしいというのがファン共通の願いでしょう。
内部告発から見えてくる教訓を真摯に受け止め、より健全で透明性のあるホロライブとなることを期待したいところです。
管理人のひとこと
ホロライブファンの一人として、これらの内部告発の話題には胸が痛む思いです。
演者さん達が伸び伸びと活躍できる舞台裏には、運営の健全なサポートが欠かせません。
人気が出るほどトラブルも増えるのかもしれませんが、ぜひ会社にはしっかりと舵取りをしてもらい、もう二度と悲しい告発が出てこないよう願っています。
参考資料
- https://matomedane.jp/page/54101
- https://news.joysound.com/article/557250
- https://www.sponichi.co.jp/entertainment/news/2022/02/24/kiji/20220224s00041000392000c.html
- https://cover-corp.com/news/detail/20220224a (潤羽るしあ契約解除に関するお知らせ)
- https://kai-you.net/article/91108
- https://note.com/royal_rhino5215/n/n9aa1eb9acee9
- https://anond.hatelabo.jp/20250428022002
- https://smbiz.asahi.com/article/15481813
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